<コラム> 「スケルツォ」調香師 マチュー ナルダン インタビュー <コラム> 「スケルツォ」調香師 マチュー ナルダン インタビュー

ジャズ・エイジのメランコリックな作家 F. スコット フィッツジェラルドによる「夜はやさし」の一節からインスパイアされた二つのオーデパルファム「スケルツォ」」と「テンダー」。このコラムでは「スケルツォ」を調香したマチュー ナルダンのインタビューをお届けします。

Q: こんにちは、マチュー。あなたはグラースに拠点を置くロベルテの調香師ですが、今はニューヨークのクリエイティブセンターで働いていますね。ロベルテでの典型的な一日がどのようなものなのか、少し教えてもらえますか?

A: こんにちは。そうですね、5年前にロベルテで働くためにニューヨークに引っ越してきましたが、ニューヨークとフランス、そして南部のグラースを行ったり来たりして過ごしています。私は常に様々なプロジェクトに取り組んでおり、典型的な一日というと早朝に出社して、前夜に準備したサンプルの匂いを嗅ぐのが日課です。綺麗な空気のように、新鮮な視点をプロセスに持ち込むことが大切です。前の晩と朝の鼻の状態では、匂いはまた違って感じられます。退社前、一日の終わりにはパーソナルな時間を作ります。言ってみれば、新しいアイディアを探求するためのクリエイティブな遊びの時間。脳と感覚を鍛えるための方法です。

Q: あなたの体には香水が流れているのでしょうね。フランスの香水の歴史的中心地として知られるグラースでフローラルな空気を吸って育ったのはどんな感じだったのでしょうか?

A: 祖母がグラースのローズとジャスミンの生産者であることが、私が調香師になろうと思ったきっかけになったと思います。天然素材にはいつも心を奪われますし、インスピレーションを与えてくれます。グラースで育つということは、香りの世界と自然のリズムとが調和した生活を送るということ。花の開花、収穫、抽出。私は、収穫からボトル詰めまでの素材の旅に魅了されるようになりました。花の収穫は、過酷な労働です。オイルやコンクリートを作るためには大量の花が必要です。ジャスミンを例にとると、それは花そのもの以上に、大勢の人と専門知識の物語であり仕事なのです。

Q: あなたは化学の学位を取得し、パリのISIPCAでさらにトレーニングを受けていますね。最初に示される香水の概要に取り組む際には、クリエイティビティと完璧なテクニカルスキルのバランスをどのように意識していますか?

A: クリエイティビティがすべてであることは間違いありません。技術的な部分は目に見えないようにしなければなりません。芸術的な効果を得るために技術的な部分を調整できるようになる必要がありますが、まず最初に来るのはアイディア、コンセプト。創造性にフォーカスしなければなりません。まるで、膨大な言葉のパレットを持ち、複雑な語彙を使って仕事をしますが、アイディアを適切な言葉で翻訳する方法を知っている作家のようなものです。それはエフォートレスに見え、創造的なスタイルであふれ出てゆくものでなくてはいけません。

Q: あなたがミラー ハリスのために作ったローズ サイレンスは、とてもクリーミーで白い香りがして、どこか打ち捨てられたような、雨で湿った供花のような香りがします。そして、ベチバー インソレントは、アイコニックな植物の根をもっとも新鮮で異なった解釈をしたものの一つです。あなたがミラー ハリスのためクリエイトした香水をどのように説明しますか?

A: ローズ サイレンスのアイディアは、市場に向けて、今までとは違うローズの香りを作ることでした。職人的でとてもコンテンポラリーな、モダンなローズの香水です。ベチバー インソレントに関しては、様々な側面とスパイスのタッチがある独特なウッドの香水を作りたいと思っていました。

Q: 香水協会のインタビューで、あなたはこう言いました。「..調香師として、本を読むときには、自分が読んでいるものを嗅ぐことができます - 作家が描写していることを感じることができます。」F. スコット フィッツジェラルドの「夜はやさし」のある一節からインスパイアされたあなたの作品、ミラー ハリスの「「スケルツォ」」に照らすと、これは大変興味をそそられる言葉でした。香水の概要としてこの一節を渡された時の感想を教えてください。

A: この「夜はやさし」の一節はとてもユニークなものでした。通常、私はイメージや言葉、音楽などを渡されることが多いのですが、この一節はとても生き生きと描かれていました。チューリップ、ピオニーのピンク色の雲、シュガーフラワーにモーヴのローズ。私はすでにこの本に親しんでいたので、香りに小説全体のムードを刷り込むことは非常に重要でした。「夜はやさし」の舞台は南フランスのフレンチリビエラで、海、太陽、暑さについての素晴らしい描写があります。「スケルツォ」のバックグラウンドを満たすため、私は頭の中でこの本と登場人物のための独自の色彩とパレットを組み立てました。

Q: 「スケルツォ」は、私にとっては、砂糖の痕跡、砕けたシュガーローズ、花粉、花びらが混ざった空のケーキ箱のような香りがします。「スケルツォ」では、どのようにして甘さのバランスを取りながら、フローラルブーケとフレッシュなグリーンの感覚を維持したのでしょうか?

A: 確かに、「スケルツォ」にはグルマンな側面があり、それが香りの構成のうちのグリーンなフローラルと対照的な役割を果たしています。 ポップさを添えるためのものです。まるで画家が色で遊んでいるように、キャンバスの上で対照的なトーンを隣同士に並べるように。

Q: 「スケルツォ」でピットスポルム(トベラ)を使用していることに興味をそそられました。香料の素材としてはあまり使われることがありません。ピットスポルムについてもう少し詳しく、またなぜ選んだのか教えていただけますか?

A: ええ、もちろん。ピットスポルムは、南フランスでは生垣として使われ、とても強いスパイシーな甘い花を咲かせます。そばを通り過ぎたときの香りは、オレンジフラワーとジャスミンのミックスのように人を酔わせるような催眠術的なものです。 「夜はやさし」を読んでいると、空気中にこの香りを感じました。夜のシーン、屋外のディナーパーティのシーンなどで。それは私にとってとても鮮やかなものでした。

Q: 文学作品といえば、あなたはスケジュールの中で本を読む時間を作りますか?

A: 私は読書が好きで、時間を見つけるのが難しいときもありますが、できれば週に1冊は本を読むようにしています。好きな読書時間は朝。目を覚まして1時間ほど本を読むのが好きです。これは、一日を始める前の静かで良い時間です。

Q: 上記に関連して、あなたが香りの素晴らしいインスピレーションになると思う本はありますか?

A: うーん。これは難しい質問ですね。ジョリス=カルル ユイスマンスの本「さかしま」でしょうか。この本はデカダンでセンシュアルな描写が多く、その中には香水についての文章も含まれています。





※このインタビューは2018年におこなわれました。