<コラム> 「テンダー」調香師 ベルトラン ドゥシュフール インタビュー <コラム> 「テンダー」調香師 ベルトラン ドゥシュフール インタビュー

ジャズ・エイジのメランコリックな作家 F. スコット フィッツジェラルドによる「夜はやさし」の一節からインスパイアされた二つのオーデパルファム「スケルツォ」」と「テンダー」。このコラムでは「テンダー」を調香したベルトラン ドゥシュフールのインタビューをお届けします。



Q: ベルトラン、あなたの作品は複雑かつ芸術的に場所や状態を喚起します。成功しているインディペンデントな調香師として、特定のブランドやディレクターと仕事をする理由は何ですか?

A: 誰かと仕事を一緒にするには、その人と良い関係を築いている必要があります。
どんなアイディアもオリジナルでなければなりませんし、私の心に響くものでなければなりません。一緒に仕事をする人たちと明確な対話をするためには、同じような美意識を持っていることが重要なのです。

Q: コラボレーションのプロセスで楽しいと思うことは何ですか?

A: 私にとっては、同じレベルで物事を認識し、同じような美的言語を話し、アートやデザインの表現を共有することです。一つの名前、一つの形、一つのアイディア、一つのデザインについて、エキサイティングな考察があるはずです。誰もが同じ目標に向かって努力している。これが面白いところです。

Q: 自分の鼻が生活の糧になっているとき、どのようにして香りへの熱心で一貫した関心を維持していますか?

A: 毎回「何か新しいことをしたい」と思っています。この欲求が私のモチベーションを維持しています。 今までにないことができないか?言うのは簡単ですが、実行するのは難しい。私は市場から離れて、自分のアイディアを発展させたいと思っています。どんなことが起こっているか、名称や発売について、あなたも色々と知っているでしょう?私は少し距離を置きたいと思っています。そうすれば、何が起こっているかに悩まされることなく、自分のアイディアにつながることができますし、気が散ることも少なくなります。私は常にいくつかの仕事を進めています、15から20ほどのフレグランスでしょうか。それらを発展させるためには、最終的に面白いかどうかに関わらず、このようなやり方をする必要があるのです。

Q: あなたは芸術、特にアフリカのトライバルアートを愛していることでよく知られていますね。芸術としての香水について、あなたはどう考えますか?香りの創造を絵画や彫刻のようなものにまで高めることができるのでしょうか?それともオートクチュールの工芸品のようなものでしょうか?

A: いいですか、香水は驚くほど洗練されたものになれると思いますよ。それは天然成分の含有レベルの高さによるものです。これらは製法の複雑さを増加させますが、香りは吸い込むことができて人を感動させなくてはいけないし、ボリューム感やバランスの良さも必要です。しかし現代の消費者が、あるフレグランスがどのくらい洗練されたものか、あるいはベーシックなものであるか、本当に認識することはできません。香水はいまだに謎めいた世界であり、私は個人的には香水が絵画や彫刻、写真と同じように芸術であると見なされるには、まだ長い時間が必要だと思っています。

Q: あなたの作品「テンダー オーデパルファム」はF. スコット フィッツジェラルドの「夜はやさし」からインスパイアされた美しい香水のデュオの一つです。文学的な香水の概要に対してどのように答えたか、またそれはあなたの通常の仕事のやり方とは異なっていたかを教えていただけますか?

A: 早い段階でこのアイディアについて聞き、本のテキストや花のイメージなどが送られてきました。シンプルな解釈とも言えますが、とても興味深いものでした。ブラックチューリップをメインテーマにしたアイディアはすぐに思いつきました。これが私の好きなやり方です。

Q: 香水の概要として使用された「夜はやさし」の一節では、ブラックチューリップが言及され、現在は「テンダー」のフレグランスノートの中にアコードとして記載されています。あなたは素晴らしい結果を出し、とてもオリジナリティのある香りだと思います。
差し支えなければ香水の秘密をお聞きしたいのですが、どのようにしてこれを実現したのですか?

A: 「テンダー」では、このブラックチューリップの香りが欲しいとすぐに思いました。概要の言葉を読んですぐに、これが私がやりたかったことだと思いました。それは一年以上私の頭の中にありました。先ほども言いましたが、私は革新的なことをするのが好きなんです。「テンダー」では、フローラルなグリーンチューリップのノートをブラックと交差させ、この引用部分のブラックチューリップを表現しました。南フランスのフレッシュなグリーンフローラルの効果と本のブラックインクへの示唆とのミックスです。

Q: 人々が香水に魅了されるのはなぜだと思いますか?

A: 感情で満たされた本能的なもので、脳の旧皮質に直結しているからです。私たちの感情に大きな影響を与えます。

Q: お気に入りの素材は何ですか?

A: うーんこれは難しい質問ですね。たくさんあります。では三つに絞る?オッケー。イリスはもちろん。それとベチバー、この素材の複雑さが好きです。ダバナ。ああそれとパチョリ。パチョリは大好きです。ああ、四つですね…。

Q: 個々の調香師のスタイルについて書かれたものは多くありますが、ドゥシュフールのシグネチャーについてはどのように表現しますか?

A: シグネチャー?洗練がすべてです。先ほども言いましたが、これは天然素材を使っていることに由来しています。私は自分の作品を本のように捉えるのが好きで、香りのレイヤーは本のページをめくるようなものです。

Q: 今回は文学もテーマに含んだインタビューになりますが、好きな作家や小説はありますか?

A: フリオ コルタサルの文学作品が大好きです。彼の作品は特別なものです。実際、私はラテンアメリカの作家たち、アジェンデ、マルケス、マジックリアリズムのテーマ、美しい言葉と巨大な想像力に満ちた作品が好きです。

Q:上記に関連して、あなたが香りのための驚くべきインスピレーション源になると思う本はありますか?

A:二冊の本を挙げます。ジャン=クリストフ リュファンの「ブラジルの赤」はブラジルの発見と、16世紀のポルトガル人とフランス人による最初の植民について書かれた驚くべき本です。あらゆる感覚にささげられた詩であり、新しい世界の嗅覚に関する独特な記述があります。
もう一冊はスーザン フレッチャーの「Corrag」です。Corragはスコットランドの若い放浪者、ハーバリストでありヒーラーです。Corragが子供の頃に火あぶりの刑に処された母親と同様に、無知なイングランド人により魔女と見なされます。本の内容は彼女とジャコバイトのアイルランド人との対話です。彼女はグレンコーの虐殺直後に病人を助けたために、追跡と捕縛後に訪れるであろう死を待ちながらの対話なのです。実に素晴らしい本です。


Q: 最後に、先に進むためのモチベーションを維持しているものは何ですか?

A: イノベーション。毎回新しいことをやってみたいという気持ち。これが私の熱意を維持しています。私たちは、5000種類以上の化学物質、天然物にアクセスできます。さらに限定すると200種類でしょうか。想像力があれば何でもできます。



※このインタビューは2018年におこなわれました。